以前こんな質問をされました。
「フィンランドで生活するのにフィンランド語は必要ですか?」
この手の言語習得について質問に答えるのはかなり難しいです。
完全に"人による"としか言いようがないからです。
ですがフィンランドについての情報を発信するブログで公用語の言及を避けるのも不自然です。
そのため「フィンランドで生活するのに必要な言語について」の自分の意見を書いてみます。
英語について
フィンランドで永住を目指している人ならば英語はある程度話せるようにしておきましょう。
フィンランド語を学習しない場合、英語は必須です。
もちろん旅行者やホリデー重視のワーホリならば英語とフィンランド語が話せなくても何とかなるので過度に気にする必要はないです。
逆にフィンランド語だけを学習する場合も状況が厳しいことに変わりはないことを覚えておきましょう。
英語が話せないことによるデメリットは主に以下の2つです。
1)職業選択の幅が狭まる
オフィスワーカー、または専門職として働く場合は英語は必須です。
文献が英語、または海外から来客が来て英語で会議などは当たり前なことが多いです。
フィンランドはヨーロッパに属していることもあり仕事場が国際色豊かになる傾向が強いです。
またフィンランド人にとって英語を話すのはごく当たり前の感覚です。特別な事ではありません。
フィンランド語はもちろん英語も流暢に話し、更に他言語(フランス語かドイツ語が多い)も話せる人が多いです。こういった人材と転職市場で競い合うことになります。
相手の方が市場価値が高い状況で勝負に挑み、勝てる見込みはどのくらいあるのでしょうか。
その際他の人にはない突出したスキルを習得するなど、周りとの言語スキル差を埋める必要があります。
英語を学習するか、他の人にはないようなスキルを習得するかはご自身の判断で決めましょう。
逆にブルーカラー(肉体労働)の職種であればフィンランド語だけでも業務に支障がない場合が多いです。もちろん本当にやりたい仕事であればこの職業を選択するのは間違いではありません。
ただしブルーカラーは平均給与が低い、シフト制で夜勤や土日出勤がある、などの留意点も多くあります。簡単に仕事につけるからとこれらの職を選ぶのは一つの手段です。しかしそれが将来後悔をしない選択であるかは自問してほしいと思います。
2)フィンランド語学習は英語より時間がかかる
英語であれば日本の教育課程内で触れるので、完全に一からスタートするわけではありません。
基本文法や単語はある程度習得できているはずです。(忘れていてもすぐ思い出せるものですよ。)
逆にフィンランド語は一からのスタートです。
また英語は話者数が世界一多いということもあり学習するための情報やツールが多く揃っています。
日本に居ながらでも上達しやすいです。
どちらが早く上達できるのかをあえて考えると英語の方が軍配が上がります。
スウェーデン語について
フィンランド語に加えてスウェーデン語もフィンランドの公用語です。
ではスウェーデン語も習得する必要があるかと言うと、ほとんどの場面において必要ありません。
スウェーデン語を話す人はフィンランド人と同じく英語を流暢に話せる人が多く、日常生活や仕事で困ることはそうないでしょう。
ただし以下2つの例外があります。
1)フィンランドのスウェーデン語圏内に住む
フィンランドにはオーランド諸島(Ahvenanmaa)、ヤコブスタード(Pietarsaari)などスウェーデン系フィンランド人が多く住むエリアがあります。
そのエリアに移住し、仕事もそのエリアで探す場合はスウェーデン語が必要になる場面も増えそうです。
2)公務員を目指す
大卒の学歴を求められるような専門職としてフィンランドで公務員になる場合、スウェーデン語の履修は必須となります。これは独学で学習するという意味ではなく、大学で「公務スウェーデン語(Virkamiesruotsi、通称Virkaruotsi)」の科目を履修する必要があります。
この履修は学士課程で必修となっていますが、フィンランドの大学では学士や修士の垣根があまりないため修士課程でも取れるでしょう。
ちなみに履修に必要なレベルはフィンランドの高校卒業くらいが目安になります。
英語で言うと高校英語レベルです。
大学で勉強している学問によっては公務職に興味深い仕事があるかもしれません。
その場合取っておいた方が将来職業選択の幅が広がります。
フィンランド語について
ではフィンランド語の場合はどうなのか書いていきます。
フィンランド人は大半が英語を話せるため英語だけでも基本的な生活はできます。
スーパーで買う食料品の原材料は公用語のフィンランド語とスウェーデン語だけ書かれていることも多く、そういった面で多少の不便さは感じます。
もちろんスマホの翻訳機能を使うなどで対応できるので深刻な問題にはなりません。
そのためフィンランド語を勉強するにあたって、なぜ学習するのか目的を明確にする必要があります。フィンランドに来た経緯を元に分けて考えてみましょう。
将来的に日本に帰国する可能性がある場合
長期旅行、留学、ワーホリ、就労ビザで渡航してくる人はこのカテゴリに入ると想定しています。
特に就労ビザや留学ビザを取得できた人はすでに就学先および就労先が見つかっている状態です。
つまり英語で目的が達成できる環境にあるわけです。そのため無理に習得する必要がなくフィンランド語学習は好みの問題になるでしょう。
もちろん勉強してみたいと思うのならしてみる価値は十分にあります。
ただし留学で来る人はフィンランドに滞在できる期間は限られています。
そのため日本に居てもできることは事前にやっておきましょう。時間の節約にもなります。
文法などの基礎は日本で学んでおいて、フィンランドに来たら実践を重ねてさらに語学力を伸ばす、というのが理想ではないでしょうか。
フィンランドに来た一番の目的が専門分野の学習となる場合、それが疎かにならないようフィンランド語の学習に充てる時間を考慮するのを忘れないようにしてください。
逆にフィンランドに来た目的がフィンランド語で交流することならガンガン勉強しちゃいましょう!
フィンランドに移住(永住予定)する場合
フィンランドが好きで住みたい、フィンランド人と結婚した、そういった理由で渡航してくる方はこちらのカテゴリでしょうか。
永住予定であればフィンランド語学習の前に、フィンランドに住んだら何をしたいのかを熟考してほしいです。つまりどう自分の人生を歩んでいきたいのかを考えます。
フィンランドに来たらゴールではありません、新しくスタート地点に立っている状態です。
漠然とした理由で言語学習を始めると必ずどこかで停滞してしまいます。
さらにフィンランドでは英語が通じるため危機感も感じにくいです。楽な方に流されてしまい、先延ばしにして結局習得できず時が過ぎてしまうことも珍しくありません。
言語の習得は目標ではなく、あくまでも手段です。
フィンランド語を習得した後どうしたいのかを考えてください。
仕事を見つけるためにフィンランド語を学習するのはもちろん理にかなってます。
しかしフィンランド語が話せるだけでは「誰でもできる簡単な仕事」しか見つからないことが多いです。
そこで自分の本当にやりたいことができるでしょうか?人生の大半ともいえる時間をその仕事に費やすことに疑問を感じないのならばそれは問題のない選択でしょう。
なりたい自分と言う名目で目標を定めて、そこから逆算してフィンランド語の習得が必要か、必要ならどの程度のレベルかを見極めてください。
もちろん必要ないと判断できた場合はきっぱり切り捨てるのも手です。
言語学習に充てる予定だった時間と労力を他のやるべきことに費やしましょう。
手段と目的が混同すると時間を浪費しがちです。気を付けてくださいね。
言語を学習するということ
「漠然とした理由で言語学習を始めると必ずどこかで停滞する」
これは自分なりの理論があります。
言語を学習する上で伸び悩む時期は大きく2回、最初と最後の段階で起こりえると思っています。
学習を一から始める人は初期からのスタートです。
テキストで文法を学び、単語も覚え始め、TV番組も見てみる。
しかし何を言っているのか理解するにはまだまだ先が長い段階です。
この段階では自身の語学力が伸びているのか分からず、成長を感じられないため学習を続けるのが精神的に厳しい時期でもあります。
不自由さを感じ、英語が通じるならばと他言語に逃げてしまいがちです。
そうならないためにも言語学習をする明確な理由がここで生きてきます。
「フィンランド語を話せるようになりたい」だけでは理由としては少々弱いでしょう。話せるようになったら何がしたいかを思い描きましょう。
ちなみに大人になってから英語を学習する人のほとんどはこの初期の状態をスキップできます。
中高で(または大学でも)基礎学習は済んでいるからですね。
ある程度基礎ができてきた中期では、学習が楽しく感じられるほど語学力が伸びやすくなるでしょう。
「何て書いてあるかわかる!」「相手とコミュニケーションできた!」
こういった経験は語学学習にとって非常に大切です。その経験が初期に比べると格段に増えて成長を感じ、ますます学習に費やす時間やモチベーションが保てるようになります。
中期の後半にもなってくると、フィンランド語で仕事ができるようになったり、フィンランド語で高等教育を受けられるようになります。中期の後半が移住者として一つのゴールとも言えるでしょう。
さて、フィンランドで生活するのには不自由ないほどの語学力を習得できました。
それでもなお更なる高みを目指したい、そういった人は後期の段階へ進むでしょう。
しかしこれも初期同様、茨の道です。
フィンランド語が真の意味で難しい言語だと実感するのもこの段階です。
例えばフィンランド語で話をしていると「文法も発音も完璧、相手とも意思疎通ができている、なのに何かが違う気がする」という違和感をたびたび経験します。
自分はこの理由、フィンランド人らしくないフィンランド語を話しているからだと考えています。
これは説明が非常に難しいのでなぜなのかをはっきりと書くことはできません。
ちなみにこのフィンランド人らしくない言い方をすると「この人はフィンランド人ではないな」と分かってしまいます。
数値で表すと、外国人によるフィンランド語習熟度の最大値は99%だと思っています。
フィンランド人と同じ100%になることはほぼ不可能で、この1%の差はフィンランド人かどうかで決まると考えています。つまり幼少期からフィンランドに住み始めた外国人でも乗り越えられない壁です。
たぶんこれはマイナーと言われる言語ではよくある現象なのかもしれません。
後期の段階になると大体のことは既に分かっているので新しい知識を探すのに手間取ります。
またそういった状況下で100%になれない99%を目指して頑張ることになります。
仕事も見つかり、友人達ともフィンランド語で問題なく会話ができ、不自由ない状況でどこまで自分を律して頑張れるかはその人次第でしょう。
面白そうだからとフィンランド語を何となく学ぶ人。
フィンランド留学を大切なものにするために学ぶ人。
フィンランド人と結婚し、将来パートナーを助けられるように自立した生活を目指して学ぶ人。
フィンランド社会についてより理解を深めようと学ぶ人。
みなさん様々な目的がありフィンランド語を学んでいます。
目的を見失わないためにも一度、自分の目標を振り返ってほしいと思っています。